2023.03.13
令和4年度中学校(義務教育)修了式 贈ることば
今年度の冬は寒暖の差が激しく、雪も沢山降りました。しかし3月になって、日中はずいぶん暖かくなり、近畿大学の校花である梅の花も見事に開花しています。美しく咲いた梅の花がみなさんの進学を祝ってくれています。改めて、中学校課程・義務教育を修了された第二十二期生のみなさん、おめでとうございます。みなさんには今一人ずつ卒業証書を授与しました。この中にはみなさんが友人、先生方そして保護者の方々と過ごした近中での三年間の思い出がいっぱい詰まっています。
思えばちょうど三年前、入学と同時に新型コロナウイルスの影響で、緊急事態宣言による自宅でのリモート授業や分散登校が続き、楽しいはずの様々な行事も中止や縮小になるなど、本当に大変な日々でした。ですからみなさんにはこの三年間、いい思い出があまりないかもしれません。しかし延期した修学旅行にも行くことが出来ましたし、近校祭も開催出来ました。クラスや学年で取り組んだ記憶は決して消えません。それらの思い出はきっとみなさんのかけがえのない財産となるでしょう。
一方でみなさんがこれから活躍しようとしているグローバル社会に目を向けると、一年前から、ロシアがウクライナに軍事侵攻し多くの犠牲者や避難民を出したり、トルコ・シリアでの大地震では死者が五万二千人を超えるという悲惨な情勢が日々報道されています。何かと心が痛みます。でもそんな時でも、何事も前向きに、ポジティブに考えてみてください。
例えばみなさんは本校に入学して三年の間に、夏・冬二回のオリンピック・パラリンピックを経験し、日本だけでなく世界中のアスリート達からたくさんの勇気や感動を貰うことが出来ました。また昨年末のサッカー・ワールドカップ・カタール大会での興奮も思い出されますね。いよいよWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も始まりました。侍ジャパン、強いですね!
そんな中で私は今日、贈ることばとしてみなさんに、日本の伝統文化としてのマンガやアニメについてお話しします。日本のマンガやアニメは、我が国が世界に誇る素晴らしい文化です。私がすぐに思いつく好きな作家だけでも、手塚治虫先生から始まり(以下敬称略)横山光輝、石ノ森章太郎、永井豪、藤子不二雄、松本零士、水島新司、鳥山明、と枚挙にいとまがないほどです。これでもまだ時代は昭和ですが、世界の宮崎駿、高畑勲、そして庵野秀明の名前を忘れるわけにはいきません。
映画になった人気作品も多く、ドラえもんは言うまでもなく、ヤマト、ガンダム、ルパン、コナン、ドラゴンボール、エヴァ、ONE PIECE、進撃の巨人、銀魂、鋼の錬金術師、鬼滅の刃、呪術廻戦、SLUM DUNK…。制作会社は、虫プロ、タツノコプロや東映、ジブリ、GAINAX、京アニ、ポケモンの任天堂、デジモンのバンダイなど、スタジオやスポンサーの名前を挙げるだけで日が暮れてしまいます。ゲームからのスピンオフも増えてきました。
またちょうど二週間前にはアニメ界のアカデミー賞といわれるアニー賞で、堤大介監督のONI:Thunder God’s Tale「ONI 神々山のおなり」が作品賞(TV配信部門)を受賞しました。日本古来の伝統と美しい自然を背景に、風神・雷神や河童、天狗など可愛いキャラが活躍する、とても素敵な感動作です。日本語版だけでなく英語版のキャスティングも素晴らしく、また大変分かりやすい英語なのでおススメです。フルCG作品ですが、敢えてストップモーション風に作られており、そこも楽しめます。
そして今年のベルリン国際映画祭では、新海誠監督による「すずめの戸締り」が高い評価を受けました。新海監督といえば、みなさんは二〇一六年に大ヒットした「君の名は。」や二〇一九年の「天気の子」を思い出す人もいるでしょう。個人的に「君の名は。」は日本映画の傑作の一つだと思います。そんな新海監督の新作で昨年公開された「すずめの戸締り」ですが、みなさんはもう観ましたか。
新海監督自身も話されているように、この作品には大きなテーマがあります。それは「東日本大震災」という柱です。この作品は、十二年前の今日、東北地方の太平洋湾岸を襲った大地震をモチーフにして、女子校生すずめが奮闘するロード・ムービーです。内容は荒唐無稽に思われるシチュエーションですし、震災の生々しい場面もなく、新海監督らしい大変美しい日本の情景と、生き生きとした人々の生活ぶりがユーモラスに描かれていますが、そこに毅然とした監督からのメッセージを感じ取ることが出来ます。
思い起こせば私がみなさんと同じ年齢の頃、マンガを読んだりテレビでアニメを見ていると、「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」と叱られたものでした。でもそんな「遊び=役に立たないこと」と言われた中から、これほど素晴らしく世界に誇る文化が生まれているのです。今回も新海監督がこの「すずめの戸締り」を通して世界に向けて、映画を楽しむのと同時に、震災の記憶とその備えを訴えかけることが出来た功績は大きく、「マンガばかり見ていた」私にとっても大変意味深い事だと考えています。
もし今みなさんに興味を持ったり夢中になっているものがあり、それを周りの人たちが理解してくれないとしても、自分がそのことに集中できる理由を探ったり、その先にある未来について考えを深めているのであれば、そしてその目的がみんなの幸せで明るい社会に繋がっていくのなら、私はみなさんをぜひとも応援したい!
かつては軽視されていた「マンガ・アニメおたく」の人たちが、こうして日本を代表する文化を作り上げているのです。目標をもって取り組めば、イヤなことや少しくらい辛いことでも乗り切ることが出来ます。ですからみなさんも、日々の取り組む学習に自分なりの意味を持たせて、目標達成のための礎(いしずえ)(基礎固め)にしていきましょう。結果は後からちゃんと付いてきます。
改めて本日ご臨席いただいた保護者の皆様に、お祝いとお礼を申し上げます。この三年間、コロナ禍で何かとご心配やご苦労も多かったでしょう。そんな中でも本校の教育にご理解とお力添えを賜りましたことを、本当に感謝いたします。有難うございました。高校へ進学したこの後も、引き続きご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
さあ、今日はみなさんの新しい「高等学校」というステージへのランクアップの第一歩です。校訓にある「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人」になるように、みなさんそれぞれが個性を生かし、自信と誇りを持ちながら、自分なりの努力を続けてくれることを期待しています。
Aim for a Higher Level !
令和五年三月十一日