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校長室

2025.03.08

令和6年度 中学校(義務教育)修了式 学校長式辞 贈ることば

今年の冬は寒暖の差が激しく、久しぶりに雪の多い寒い日々もありました。しかし3月になって、近畿大学の校花である「梅の花」の蕾も少しずつ膨らみ始め、可愛い紅白の花がみなさんの進学を祝ってくれています。改めて、中学校課程・義務教育を修了された第二十四期生のみなさん、ご卒業、おめでとうございます。みなさんには今一人ずつ卒業証書を渡しました。この中にはみなさんが友だちや先生方、そして家族と過ごした近中での三年間の思い出がいっぱい詰まっています。

三年前、みなさんが本校に入学したころは、まだコロナの影響で、楽しいはずの様々な行事が縮小になり、寂しい思いをした人もいると思います。しかし2年生になってからは、関東方面への修学旅行にも行くことが出来ましたし、近校祭も盛大に開催出来ました。そういった行事の中で一緒に取り組んだ記憶は決して消えません。きっとみなさんのかけがえのない財産となるでしょう。

「消える」という話題で、先日あるネットニュースを見ていると興味深い記事が目に留まりました。
「2025年までにデジタル化されなければ、テープは永遠に失われかねない」
2019年7月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)と国際音声・視聴覚アーカイブ協会(IASA)は「マグネティック・テープ・アラート」と題した警告を発表。磁気オーディオ、ビデオテープの再生機器が急速に姿を消し、保守部品の供給とサービスもなくなっているとして世界に対応を求めた。(東京新聞2025年1月1日)

みなさんVHSって知ってますか?今から50年近く前(ちょうど私がみなさんと同じ年齢の頃)に開発された家庭用ビデオテープのことです。「ビデオテープって何?」という人もいるでしょう。TVや映画を録画して保存する磁気テープ(Magnetic Tape)のことですが、最近でいうとBlu-ray Discのように録画をするものです。今はほとんどが配信やサブスクで観る時代だし、録画するとしてもハードディスクなので、ビデオテープの現物を見たことないという人も多いでしょう。今日後ろでみなさんの卒業を見守っておられる保護者の方々はギリギリご存じかもしれません。

当時はそのビデオテープにTVや映画だけではなく、ハンディカムという手持ちのレコーダーで学校の運動会や日々の生活、子供の成長、旅行の思い出などを録画し、保存していたものです。ネットの雲の上に、ではなく、家庭の本棚にです!ですからお家の本棚には、百科事典ではなくビデオテープがずらりと並んでいて、時々再生しては懐かしんでいました。ただその画質は荒くて今見るととても鑑賞に堪えうる様な代物ではありませんが。TVもブラウン管の頃ですね。

今や時代はデジタル、オンライン、クラウドに移行し、家庭には何の媒体も必要なく、ネット環境さえあればスマホひとつで全てが完結し、画質や音質も飛躍的に向上しました。4K・8K時代です。みなさんにとっては、それが普通、ですよね。私のようにオールドメディアに親しんできた人からすると、いわゆるデジタル・ネイティブのみなさんです。

しかし今も私の家には捨てずに残してあるビデオテープが沢山残っています。そこには、当時の様々な思い出が記録されているのに、その貴重な思い出が今年、2025年を境にもう観たり聴いたりすることが出来なくなってくる、という記事でした。これを読んで私が感じたのは、懐かしいというノスタルジックな想いだけではありません。今や大量のごみとなっていく磁気テープの存在が、果たして無駄だったのか?という疑問でした。音楽を一つの例にとってみましょう。

1976年に家庭用ビデオデッキが生まれる更に十数年前、音楽はアナログ音源のレコードやFM放送からオープンリールやカセットテープに録音していました。そこからビデオが生まれ、1980年代に入るとデジタルのCDやMDが全盛になります。そしてiPod、DVDやBlu-rayに発展していき、今日みなさんが親しんでいるBluetoothやネット配信へと繋がっていくのです。

しかしその過程に於いては多くの失敗と試行錯誤がありました。私が知っているだけでも、性能は優れていたのにVHSとの競争に敗れたSONYのベータマックス、8ミリビデオ、カセットのウォークマン、エヴァンゲリオンでシンジくんが聴いていたDATなどたくさんあります。テープ自体も改良され、メタルテープや高感度のHiFiグレードなど音質や画質も良くなっていきました。

この話から、みなさんが高校課程に進級していく今日、私が伝えたいことは、こういった半世紀にも及ぶ記録媒体の様に、進化にはひとつ一つの積み重ねがあり、時代はそういう進歩する過程を経て今がある、ということです。そして古いものを全て捨ててしまうのではなく、先人の残した技術革新の歴史を振り返って辿り、彼らの努力や足跡を探究することも必要なのです。それは歴史を学ぶ意義だと思います。

もう一つ伝えたいのは、今みなさんが毎日の生活の中で学んでいることに無駄なことはない、という点です。みなさんが今、「これって、どんな意味があるの?」と思うような勉強でも、きっと将来役に立つ時が来ると私は信じています。ですから今はまだみなさんにとっては興味のない学習内容でも、頑張って取り組んでほしいと願っているのです。それが学校での勉強です。今は無駄と思われるような内容でも、カセットがサブスクに繋がっていったように、みなさんの幸せで明るい社会に繋がるこれからの高校生活での学習を、私たち教員も全力で応援したいと思います。

改めて本日ご臨席いただいた保護者の皆様に、お祝いとお礼を申し上げます。この三年間、何かとご心配やご苦労も多かったことでしょう。そんな中でも本校の教育にご理解とお力添えを賜りましたことを、本当に感謝いたします。有難うございました。高校へ進学したこの後も、引き続きご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

さあ、今日はみなさんの新しい「高等学校」というステージへのレベルアップの第一歩です。校訓にある「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人」になるように、みなさんそれぞれが個性を生かしながら、自信と誇りを持ち、4月からは高校生として頑張ってくれることを期待しています。
Aim for a Higher Level !



令和七年三月八日
近畿大学附属 広島中学校 東広島校 校長 橋本晃一

投稿者 : devadmin

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