2022.03.12
令和3年度 中学校(義務教育)修了式 学校長式辞
今年の冬は例年になく寒い日が続き、雪も沢山降りました。しかしまだ朝晩は冷え込むものの、日中はずいぶん暖かくなり、近畿大学の校花である梅の花も見事に開花しています。美しく咲いた紅白の梅の花がみなさんの進学を祝ってくれているかのようです。
改めて、中学校課程・義務教育を修了された第二十一期生・百二十二名のみなさん、おめでとうございます。みなさんには一人ずつ中学校の卒業証書を授与いたしました。この卒業証書にはみなさんが友だちや先生方そして保護者の方々と過ごした近中での三年間の思い出がいっぱい詰まっています。
しかし思えばちょうど2年前から新型コロナウイルスの影響で、自宅でのリモート授業や楽しいはずの行事も中止や縮小になるなど、みなさんにはあまりいい思い出がないかもしれません。しかしクラスの仲間や学年で取り組んだいろいろな記憶は決して消えません。きっとみなさんのかけがえのない財産となるでしょう。
近畿大学の創設者である世耕弘一先生は、若い時に大変苦労をして勉学に励まれました。そして「学問が運命を開いてくれた」と話されています。これからみなさんが進学する高校では、社会人として今まで以上に責任を持って自主的に取り組んで行かねばなりません。世耕弘一先生のように努力を積み重ね、真の高い学力を身に付け、それを発信していくことで、自らの運命を切り開いてほしいと思います。
さて今月4日から始まった北京パラリンピックは本来、スポーツを通じて世界の平和を目指す祭典となるはずでした。しかし時を同じくして、ロシアがウクライナに軍事侵攻し多くの犠牲者を出しているという悲惨な世界情勢があります。今日はこれから社会人としての第一歩を踏み出すみなさんに、このことについて、私がお気に入りのある音楽家が出したメッセージの一部を贈りたいと思います。
その音楽家の名前はトゥガン・ソヒエフといい、ロシア出身の世界的に著名なオーケストラの指揮者です。現在まだ40歳代半ばという若さで、15年前からフランスのトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の音楽監督に就任し、またロシアのモスクワ・ボリショイ劇場の音楽監督も務めています。彼はフランスやドイツの作曲家(例えばラヴェルやドビュッシー、ベートーヴェンやブラームス)も、ロシアの作曲家(例えばチャイコフスキーやプロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、ストラヴィンスキー)の作品も同様に演奏することで世界の平和に貢献してきました。
しかしロシアがウクライナに侵攻したことで状況が一変しました。フランスではロシアの演奏家を招かないことや曲目の変更などのプレッシャーがかけられるようになったそうです。ソヒエフ氏は今月7日に発表したメッセージの中でこう語っています。
「私は豊かな文化を持つ国ロシア出身の指揮者であることを誇りに思っていますし、同時に2003年からフランスの豊かな音楽文化の一翼を担っていることも大変誇りに思っています。これこそが音楽の役割なのです。音楽は、異なる大陸や文化の人々、アーティストたちを結び付け、国境を越えて魂を癒し、この地球上の平和を愛するすべての存在に希望を与えてくれるのです。」
Message from Tugan Sokhiev https://www.kajimotomusic.com/news/2022-03-07/
そして彼が出した結論は、トゥールーズ管弦楽団とボリショイ劇場の音楽監督を辞任する、というものでした。ヨーロッパとロシアのどちらかを選択することなど不可能だ、と彼は言います。そしてメッセージの最後で彼は “I will always stand by them as MUSICIAN!!!!!” (私はこれからもいつも音楽家として彼らのそばにいます!)と締めくくっています。ここでのthemとはトゥールーズとボリショイの芸術家たちを指しています。
ソヒエフ氏のメッセージはもっと長く、彼の音楽家としての様々な思いがつづられていますので、ぜひ読んでほしいと思います。私がこのメッセージをみなさんに伝えたいと思った理由は2つあり、1つはもちろんソヒエフ氏も願っている世界の平和です。もう1つは、彼の確固たる信念に基づく言動について感動したからです。世界的に大きな2つの組織を辞任する、つまり職を失うという覚悟を持ってでも彼には伝えたいメッセージがありました。
みなさんはどうでしょうか。これから自分の将来を考えるときに、ソヒエフ氏のように自分のアイデンティティや考え方をしっかりと持ち、それを貫く覚悟も持ってほしい、そんな想いで少し深刻な話題にはなりましたが、みなさんがこれから高校生そして社会人として生きていく上での参考になれば幸いです。みなさんには一人ひとり異なった輝く個性と素晴らしい才能があります。それらを育み生かしていくためにも、ぜひ前向きに物事を考えて、常に挑戦する気持ちを忘れないでほしいと思います。
終わりになりますが、本日ご臨席いただいた保護者の皆様に、お祝いとお礼を申し上げます。この一年もコロナ禍で何かとご心配やご苦労も多かったのではないかと思いますが、本校の教育にご理解とお力添えを賜りましたことを、本当に感謝いたします。高校へ進学したこの後も、引き続きご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
さあ、今日はみなさんの新しいステージへのランクアップの日です。校訓にある「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人」になるように、みなさんそれぞれが自分の個性を生かし、自信と誇りを持ちながら、自分なりの努力を続けてくれることを期待しています。