ブログ

校長室

2023.02.28

令和4年度 卒業式 学校長式辞

今年度は例年よりも沢山の雪が降り、寒暖の差が激しい日々が続きました。しかしようやく春の日差しを感じる日が増え、校庭の梅の木も可憐で品格のある白や赤の花を少しずつ咲き始めています。そんな今日の良き日に、PTA、同窓会のご来賓、保護者の皆様のご臨席をいただき、こうして無事に卒業証書授与式が挙行できますことを心から感謝申し上げるとともに、本校教職員を代表して厚くお礼申し上げます。

改めて第25期卒業生222名のみなさん、ご卒業、おめでとうございます。今、みなさんに授与した卒業証書には、みなさんが友人たちや先生方と過ごした近校での月日が凝縮されています。この三年間で成長した自分を改めて実感してください。コロナ禍の三年間、本当に良く頑張りました。

こうして振り返ってみると、みなさんは新型コロナウイルスの緊急事態宣言で、学校に登校出来ない四月からのスタートでした。リモート授業が続き、学校行事も中止や縮小されました。また世界に目を向けてみても、ちょうど一年前からロシアがウクライナに軍事侵攻したり、先日トルコ・シリアで起こった大地震では死者が五万人を超えると報道されて、日々心が痛みます。みなさんにとってもこの三年間は、苦労をし辛かった思い出が多いかもしれません。

しかし五月には念願の北海道への修学旅行も実施出来ましたし、少しずつ日常の楽しい行事やコロナ以前の落ち着いた生活が戻ってきました。いつもお話ししているように、私はみなさんに何事もポジティブに考えてほしいと思っています。例えば、みなさんは高校在学中に夏と冬の二回のオリンピック・パラリンピックを経験出来ましたし、サッカーのワードカップ・カタール大会での感動は記憶に新しいところです。日本のアスリートたちの活躍に、たくさんの元気や勇気を貰うことが出来ました。(WBC:ワールド・ベースボール・クラシックも、もうすぐですね。)

また一方でこの三年間には、ノーベル賞を受賞された眞鍋叔郎(まなべ しゅくろう)博士や写真家の千葉康由(ちば やすよし)さん、アニメ映画監督の新海誠(しんかい まこと)さんをはじめ、科学や芸術の分野で活躍された方も沢山おられます。ちょうどみなさんが在学中の二〇二一年から二十二年にかけてカンヌ国際映画祭やアカデミー賞など世界の映画賞の数々を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の脚本・監督をされた濱口竜介(はまぐち りゅうすけ)さんもその中のお一人です。
 
この映画ドライブ・マイ・カーについては、今年度の一学期始業式でも少し触れましたが覚えていますか。「自分の内面や想いをどう表現できるのか、いろいろな角度から考察できるいい映画だ」とか「広島のなじみの場所やとても美しい映像も楽しむことが出来ます。またみなさんが将来、自分を振り返って現実的に職業を考えるときに、参考になるかもしれません。」というお話しをしました。

今日はその濱口監督がまだドライブ・マイ・カーを制作される前に、東京大学文学部卒業生インタビューの中でお話しされた内容から、私が感銘を受けたところを少し取り上げたいと思います。そのインタビュー記事の中で、濱口監督は自身の経歴の中での大学の研究内容についてこう語っています。

「(僕は)法律にも経済にも興味はないということは自分の性質としてはっきりわかっていたし、理科系のものは苦手である。僕の選択の基準は常に『イヤじゃないことを選ぶ』です。逆に言うと、すごくイヤだなと思うことがものすごくたくさんあるんですけどね。この世の中で必ずしも役に立つと明確に見なされてはいないだろうが、自分にとってはそれなりに重要だ、と感じられるものができるのがそこである、ということだったんだと思います。」

私はこの記事を読んで、「イヤじゃないことを選ぶ」というのは、安易に楽をしたり、しどいことから逃げるというような消極的な意味ではなく、濱口監督流のポジティブな積極性だと思いました。つまり自分のことがしっかりと把握できているからこそ「イヤなこと」が分かるし、その基準に照らし合わせて「イヤじゃないこと」を見つけ、選択できるのではないかと。

この世界的に高い評価を受けたドライブ・マイ・カーですが、決して楽しくてワクワクするような映画ではありません。重いテーマを背景に、ちょっとそっけないセリフや落ち着いたシーンが粛々と続きます。しかし村上春樹さんの原作が持つ一種独特な雰囲気をうまく表現しつつ、濱口監督の「イヤじゃない」世界観を、観ている私たちにちゃんと伝えてくれているように私は感じました。

みなさんもこれから大学や社会に出て、何かとイヤなことに出くわすかもしれません。しかし自分なりの「イヤじゃないこと」基準を持っていさえすれば、逆に辛いことや苦しいことに遭遇してもポジティブな考えで判断し、道を誤らずにその難局を乗り切ることが出来るハズです。みなさんにもこの「イヤじゃないこと」指針をしっかりと身に着けてもらい、ぜひこれからの人生を充実した楽しいものにしてほしいと願っています。

改めまして保護者の皆様にお祝いとお礼を申し上げます。お子様のご卒業、まことにおめでとうございます。今日の日を迎えられ、お喜びもひとしおでしょう。特にコロナ禍でのご心配やご苦労も多かったこととお察しいたします。そんな中でも本校の教育にお力添えを賜りましたことを、本当に感謝申し上げます。これからは同窓生の保護者、PTAのOBというお立場で、引き続き本校の更なる発展を温かく見守って頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

さあ、卒業生のみなさん、今日は新しいステージへの旅立ちの日です。近畿大学の校花「梅の花」は、まだ寒い時期から少しずつ、様々な色合いで自己主張しながら見事に開花していきます。私はそんな霜雪に耐えて咲く梅の花に、みなさんの個性を映し見ています。みなさんは誰もがそれぞれ違った素晴らしい才能と無限の可能性を持っています。ぜひともこの梅の花のような高い品格と個性、未来に向かう自信と誇りそして勇気を持って、校訓にある「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人」になってください。みなさんがこれからのグローバル社会で大きく羽ばたいてくれることを祈念して、贈る言葉といたします。
Aim for a Higher Level!

     
令和5年2月28日

近畿大学附属 広島高等学校 東広島校   
校長 橋本 晃一

投稿者 : devadmin

|

校長室