2024.02.29
令和5年度 卒業証書授与式 学校長式辞「贈る言葉」
今年は暖冬とはいえ、寒暖の差が激しい日々が続きました。しかしようやく春の日差しを感じる日も増えてきた今日この頃です。今朝はあいにくの冷たい雨ですが、校庭の梅の木 にも可憐で品格のある赤や白の花が咲き始めています。本日は、近畿大学工学部長 の荻原昭夫様をはじめご来賓、保護者の皆様のご臨席をいただき、こうして卒業証書授与式が挙行できますことを、心から感謝申し上げるとともに、本校教職員を代表して厚くお礼申し上げます。
改めて第二十六期卒業生二百二十四名のみなさん、ご卒業、おめでとうございます。今、みなさんに授与した卒業証書には、みなさんが友人たちや先生方と過ごした近校での月日が凝縮されています。この三年間で成長した自分を改めて実感してください。本当に良く頑張りました。
振り返ると、三年前はまだまだコロナウイルスの影響で、学校行事も延期や縮小されているところから始まりました。また今年の元日に起こった能登半島地震ではいまだに避難所生活を余儀なくされている方々も多く、災害について改めて考えさせられる悲しい年明けとなりました。一方世界に目を向けるとロシアとウクライナの戦争、イスラエル・ハマス問題など悲惨な報道も多く、日々心が痛みます。みなさんにとっても、三年間の高校生活はいい思い出ばかりではないかもしれません。
しかし少しずつ日常の楽しい行事やコロナ以前の落ち着いた生活が戻ってきました。いつもお話ししているように、私はみなさんに何事もポジティブに考えてほしいと思っています。例えばみなさんが高校生活を送る間に日本では、夏のオリンピック・パラリンピック、ワールド・ベースボール・クラシックなどが開催され、サッカーのワードカップ・カタール大会も含め、日本人選手の大活躍により、多くの勇気と感動を体験しました。
また文化面でも、アニメ映画の宮崎駿監督や新海誠監督をはじめ、世界の数々の映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督、「怪物」の是枝裕和監督、そして日本が誇る文化ともいえるゴジラを新たな視点で蘇らせた山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」の世界的大躍進も記憶に新しく、映画という総合芸術を通してたくさん心を揺さぶられる経験が出来ました。 音楽の分野では残念ながら、世界的指揮者の小澤征爾さんが先日お亡くなりになりましたが、彼がどれだけ世界を股にかけて活躍され、我が国の芸術文化の発展に大きく寄与されたかは言うまでもありません。私も若い時からマエストロのコンサートやオペラに足を運んでその素晴らしい演奏を聴き、ポジティブなエネルギーをいっぱい貰ったことを覚えています。
その小澤さんには、弱冠24歳の時に単身でヨーロッパに渡り、スクーターで旅をしながら数々の指揮者コンクールに優勝したという逸話が残っています。(私が生まれて間もない頃です。)苦労しながらも音楽の本場の欧米で修業をしながら実績を重ね、1970年代からはアメリカのトップ・オーケストラとして名高いボストン交響楽団の音楽監督を30年近くも務め上げ、今世紀に入ってからは世界の頂点ともいえるウィーン国立歌劇場(=ウィーン・フィル)の音楽監督を2010年まで歴任されました。
こうした小澤さんの活躍ぶりは、様々なメディアでもたくさん紹介されていますが、彼が26歳の時に執筆した「ボクの音楽武者修行」という本について触れたいと思います。内容は「“世界のオザワ”の音楽的出発はスクーターでのヨーロッパ一人旅だった。国際コンクール入賞から名指揮者となるまでの青春の自伝」(新潮社書評)となっています。私も今回、十数年ぶりに読み返しましたが、ゾクゾクするその冒頭部分を少しだけ紹介します。
「まったく知らなかったものを知る、見る、ということは、実に妙な感じがするもので、ぼくはそのたびにシリと背中の間の所がゾクゾクしちまう。日本を出てから帰ってくるまで、二年余り、いくつかのゾクゾクに出会った。」
この本にはまだ無名の彼が、欧米への修行の旅で出会った人たちや、困ったときにどう乗り切ったか、どうポジティブに捉えて次のステップにしたか、またシャルル・ミンシュやバーンスタイン、カラヤンといった世界の名だたる指揮者に師事し、オーケストラと共演するに至った努力や想いが凝縮されています。何よりこの自伝は彼が20代の若さで執筆した青春白書、つまり大指揮者として世界に君臨した後ではなく、みなさんより少し年上の若きマエストロが、親しみやすい言葉とユーモアあふれるエピソード、そして瑞々しい感性で書き綴っている点がポイントなのです。
これから大学や社会の大海原に出ようとしているみなさんにも、小澤さんの飾らない人柄と波乱万丈の人生から、自分のやりたいことに取り組む際のチャレンジ精神と「やればできる!」という自信と勇気を貰い、そしてぜひとも多くの「ゾクゾク」に出会ってほしいと思います!
改めまして保護者の皆様にお祝いとお礼を申し上げます。お子様のご卒業、まことにおめでとうございます。今日の日を迎えられ、お喜びもひとしおでしょう。特にコロナ禍でのご心配やご苦労も多かったこととお察しいたします。そんな中でも本校の教育にお力添えを賜りましたことを、本当に感謝申し上げます。これからは同窓生の保護者、PTAのOBというお立場で、引き続き本校の更なる発展を温かく見守って頂ければ幸いです。
さあ、卒業生のみなさん、今日は新しいステージへの旅立ちの日です。近畿大学の校花「梅の花」は、まだ寒い時期から少しずつ、様々な色合いで自己主張しながら見事に開花していきます。私はそんな霜雪に耐えて咲く梅の花に、みなさんの個性を映し見ています。みなさんは誰もがそれぞれ違った素晴らしい才能と無限の可能性を持っています。ぜひともこの梅の花のような高い品格と個性、未来に向かう自信と誇り、勇気を持って、校訓にある「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人」になってください。そしてたくさん「ゾクゾク!」を経験してください。みなさんがこれからのグローバル社会で大きく羽ばたいてくれることを祈念して、贈る言葉といたします。 Aim for a Higher Level!
令和六年二月二十九日 近畿大学附属広島高等学校東広島校 校長 橋本 晃一