2025.03.04
令和6年度 卒業証書授与式 贈ることば(学校長式辞)
今年の冬は例年になく雪が多く、厳しい寒さが続きました。しかしようやく春の日差しを感じる日も増えてきた今日この頃、校庭の梅の木にも可憐で品格のある赤や白のつぼみを膨らませています。本日は、近畿大学工学部長の樹野淳也様をはじめご来賓、保護者の皆様のご臨席をいただき、こうして卒業証書授与式が挙行できますことを、心から感謝申し上げるとともに、本校教職員を代表して厚くお礼申し上げます。
改めて第27期卒業生231名のみなさん、ご卒業、おめでとうございます。今、みなさんに授与した卒業証書には、みなさんが友人たちや先生方と過ごした近校での月日が凝縮されています。
振り返ると、三年前はまだコロナの影響があり、2年生になってようやく5類に移行して普段通りの学校生活を送ることが出来るようになりました。しかし一方ではロシアとウクライナの戦争、イスラエル・パレスチナ問題など世界でも悲惨な状況が多く報道され心が痛みます。みなさんにとっても、三年間の高校生活はいい思い出ばかりではないかもしれません。
しかしいつもお話ししているように、私はみなさんに何事もポジティブに考えてほしいと思っています。悲しい事や辛い出来事があれば、必ずカウンターがあります。つまり、嬉しい事や元気になるようなこともあるのです。例えば映画の分野を振り返ってみると、昨年は宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」のアカデミー賞、そして真田広之さんが製作と主演をした「SHOGUN」がエミー賞最多の18部門を受賞するなど日本人の活躍する作品に、大きな感動そしてエネルギーをたくさん貰うことが出来ました。世界中の人たちも日本のアニメやカルチャーを体験し、きっと勇気づけられたことと思います。
私が去年訪れたオーストラリアや以前訪問したシンガポールでも、東京大学より世界ランキングが上のシンガポール大学の学生たちが、我々が日本から来たというと日本のアニメやゲームについて熱く語ってくれ、将来は日本の企業で働きたいと話してくれたほど、日本の文化は海外でも大人気です。
そんな中でも私が注目したのは「ゴジラ-1.0」で山崎貴監督が受賞したアカデミー賞視覚効果賞です。ハリウッド映画の10分の一ほどの予算で、しかも一般的に分業制の映画製作に於いて、監督が視覚効果まで担当すること自体が珍しいのですが、この賞の受賞には私自身、他にも驚きがありました。
例えばゴジラが海から現れ波をかき分けて船に迫るシーンで、主役のゴジラではなく、その波しぶきのリアルな動きを表現できたのは、若いCG制作スタッフからの提案があったからこそだったそうです。そんなほとんどの人が気が付かないような細部へのこだわりが、あのゴジラの迫力あるシーンを生み出し、そういう所もオスカーで評価されたのだと山崎監督はメイキング映像で語っていました。
今日みなさんが本校を卒業して社会の荒波へと旅立つにあたり、私がみなさんにお話ししたいのは、こういった1つの大きな作品やプロジェクトの陰には、縁の下の力持ちといいますか、周りで主役を支える沢山の努力や苦労があるからこそだということ、そしてそれはみなさんのような若い力が中心となって頑張っているということです。
また先日私は大学時代の親友の紹介で、コンサートホールのライブラリアンというお仕事をしている方と話をする機会がありました。ライブラリアンとは図書館で働く人ではなく、コンサートで演奏する曲の楽譜を準備するお仕事です。例えばオーケストラだと弦楽器や木管楽器、金管楽器、打楽器などのパート譜や指揮者の総譜と呼ばれる全ての楽器の載っている譜面を、曲目ごとに事前に準備する専門の人のことです。私たちは普段そんな方がおられることすら知らずに演奏会を聴いています。
しかし、みなさんの中にも吹奏楽部の人がいるので分かると思いますが、楽譜がないと困りますよね。また同じ楽器の譜面が個人のバラバラなものだとリーダーや指揮者からの指示も上手くいきません。つまりライブラリアンの仕事は、演奏会をするにあたって必ず必要なのです。
>>>>>卒業ムービーhttps://youtu.be/LC1ngf9MWOg?si=ySHZ1FinwdENQR2_
こうした表舞台には立っていないけれども、目には見えないけれども、なくてはならないお仕事について、実はそういう方々の支えによって私たちの快適な生活が成り立っているのだということを覚えておいてほしいのです。そしてこれからみなさんが生きていく社会の大海原では、そうした下支えの仕事の方が多く、華々しく活躍する一流のプロになれる人はごく一部でしかありません。でも将来自分のやりたい仕事を考える際には、ぜひそうした支える人の「やりがい」という側面を考えてみてください。
先ほどお話した映画のCG制作スタッフの方も、そして私がお会いしたライブラリアンの方も、たいへん生き生きとした良い表情をしておられます。そして実は私たち教員も、みなさんと共に過ごせたこの3年間を本当に誇りに思っています。ぜひ卒業してからも近況を知らせに戻ってきてください!
改めまして保護者の皆様にお祝いとお礼を申し上げます。お子様のご卒業、まことにおめでとうございます。今日の日を迎えられ、お喜びもひとしおでしょう。しかしこの3年間、ご心配やご苦労も多かったこととお察しいたします。そんな中でも本校の教育にお力添えを賜りましたことを、本当に感謝申し上げます。これからは同窓生の保護者、PTAのOBというお立場で、引き続き本校を温かく見守って頂ければ幸いです。
さあ、卒業生のみなさん、今日は新しいステージへの旅立ちの日です。近畿大学の校花「梅の花」は、まだ寒い時期から少しずつ、様々な色合いで自己主張しながら見事に開花していきます。私はそんな霜雪に耐えて咲く梅の花に、みなさんの個性を映し見ています。みなさんは誰もがそれぞれ違った素晴らしい才能と無限の可能性を持っています。ぜひともこの梅の花のような高い品格と個性、未来に向かう自信と誇り、勇気を持って、校訓にある「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人」になってください。みなさんがこれからのグローバル社会で大きく羽ばたいてくれることを祈念して、贈ることばといたします。
令和七年二月二十八日
近畿大学附属広島高等学校東広島校 校長 橋本 晃一